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幸福も過ぎ去るが、苦しみもまた過ぎ去る。
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「他者からの需要」がなければ、「自分の存在する余地」も生まれない。そんな風に考えるから、私には近代的な「自主性」がない。私の自主性は「他人の存在」を前提にして存在する前近代の自主性だから、あまり近代的ではないのである。
 私は、近代的な自主性を持たないから、平気でぐずぐずしているし、一向に曖昧である。私はそれを、「他人に規定されない、自分の取り分としての自由」としか考えない。(…)
 私の中にある、「前近代的な自主性」は、まず「他人の存在する自分の外側」を第一に設定する。「自分」が確固とする前に、他人に確固としていてもらえないと困る。確固としている「外側」があって、「自分」というものは、それに対応して確固としていく。だから、前近代的な人間は「世のあり方」を嘆くのである。

橋本治『橋本治という行き方 WHAT A WAY TO GO!』p.18 「小商人の息子」

橋本治のような人は近代人から見れば自主性のない、確固とした自己を持っていない人間ということになる。
論理的にはそういうことになって、ハシモト氏も揺るぎくそれを認めていて、しかし実際には読者(僕)からすればハシモト氏は「あまりにも自己が確固としていてまぶしいくらい」である。
そのように見えてしまうことも本当だとすれば、論理と感覚が一致していないということになるのだが、抜粋にあるようにこれは僕の論理が徹底されていないせいである。
つまり近代的な価値観にどっぷり浸かって暮らしている僕らにも前近代的な感覚は残っていて、それを自覚していないのだ。
あるいは近代的な価値観が「脳の独断専行」であるのに対し前近代的価値観が「脳と身体の折衷」であって、価値観に関係なく人は脳と身体をセットで持っているという言い方もできると思う。

まあそれはよくて、言いたかったのは「(あなたの)自己が確固としているか?」を問う時に「どういう価値観から見て」を言い落とすことはフェアではないなということ。
そう言いながらもこの言い落としは当たり前に行われていて、例えば教育の場がそうである。
「つべこべ言わずに言われた通りにしろ」が教師の生徒にたいする正当なスタンスなのだが、これが実際に正当となるのは前近代的な価値観で成り立っている社会においてであって、というのもこのスタンス自体が前近代的だからであって、近代的な社会でこのようなスタンスを教師がとる時(しかもその教師は近代的な価値観を持っている)、生徒は混乱することになる。
前提がはっきりしないからこそその都度前提込みで考えていかなければならない社会で、前提抜きで(つまり思考抜きの)服従を強制されることは理不尽である。
だからこそ近代的価値観を確固とさせた生徒は学習における前提(「将来のどんな役に立つんですか?」「金になりますか?」)の確認に余念がないのだが、それにきちんと(生徒の理解の及ぶレベルに落として)答える教師は教師でなくなってしまう。
だから近代的な社会でも教育の場は前近代的であるべきで、教師は「つべこべ言わずに…」だけでなく「○○○」も同時に言わねばならない。

いつの間にか教育の話になっていたが、言いたかったことに戻せば、社会に流布する様々な言説(特に当為の語法で語られているもの)が本来多様であるはずの前提を抜きにして展開されているということ。
言い方を変えればそれらは「宛て先不明の言説」であって、書き手の思いとは別に読み手はちょっと油断すれば「全てが自分に向けて書かれている」と思い込んでしまう。
ネット空間に浮かんでいる膨大な情報をネットユーザは(必要な手続きを行えば)自由に扱うことができるのだが、それを「自分を資する情報が膨大にある」と言った時、捉え方を間違えて「膨大な情報が自分のためにある、自分に関係している」と思い込んだユーザは身体的な限界を超える量のデータを前にして正常な判断ができなくなる、という状況と同じである。
このような場面での「言説(情報)の宛て先を適切に判断する能力」をうんたらリテラシーと言うと思うのだが、このリテラシーの涵養が進まないのは消費至上主義社会の要請するところである。
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