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幸福も過ぎ去るが、苦しみもまた過ぎ去る。
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「行くところまで行く」というのは、体力がいることだから、「行くところまで行く」ぐらいのことをしてしまうと、思考のピントが合わなくなる。合わないところを合わそうとして、「あ、そうなんだ」の一言に凝縮出来てしまえば、それがきっと「行くところまで行った」になるんだろうと、そんな風に考える。
(…)
 行くところまで行って、「あ、そうなんだ」に出合って、それでよしとしてしまうのは、「あ、そうなんだ」という単純な実感が、どこかで湧かないでいたからだ。それで、「行くところまで行ってやろう」などと考える。行った先が「あ、そうなんだ」で、「これが実感出来た以上もういいや」と思ってしまえるのは、つまるところ、「単純な実感が自分の現実ではつかめなかった」ということでしかない。だから、行くところまで行ったら、「あ、そうなんだ」という実感を抱えて、また現実に帰って来る。難しいのは、「あ、そうなんだ」という実感を発見させてくれなかった現実というところが、それゆえに「あ、そうなんだ」という実感を適用させてくれないということだが、それはそういうもんだから仕方がない。「あ、そうなんだ」という単純な実感が適用できるように、現実を見つめ返すしかない。なんだかわけの分かんないことを言ってるようだが、現実的なディテールを欠いた話は、みんな「なんだかわけの分かんない話」にしかならない。

「物語の土壌」(橋本治『橋本治の行き方 WHAT A WAY TO GO!』)
この「物語の土壌」は本書の最後の項。
ここだけ抜き出して「なんだかわけの分かんない話」に見えるのも仕方がない。
がしかし「現実的なディテールを欠いた話」には、ディテールを欠いてこそ、そしてディテールを欠いた分に応じた広がりがある。
本書を読んできてこの文章に出合って「そうだよな」と思い、この文章を含んだ項で本書が「終わる」ことに納得し、そしてもちろんこれは終わりではない。

既に、世界は始まっている。

自分が誕生したと同時に世界が始まるという認識は、彼が物心付く頃に改められる。
しかし、その認識があまりに圧倒的であったために、頭では分かっていても無意識のところで、あるいは体の感覚がその認識を手放さない。
…などという認識論は、たかが近現代に言われ始めたことではないのか?
個という概念が唱えられたのはいつ?

歴史に学ぶと言って現代のモノサシで過去を測っても、得られる値は「現代基準」で解釈されたものでしかない。
「行くところまで行ったら」、「現実に帰って来る」。
ここに、「現実に帰って来るまでの膨大な手間と時間」が隠されている。


自分が何をすべきか、本書に書いてあった。
それは「自分がしたいこと」ではなく「自分がすべきこと」である。
それは誰の要請か、と?
すぐこう問うのは受動性にこだわる僕自身かもしれない。
しかし、受け身であることの認識は本書を再読し終えて、変わった。
能動性より受動性が本質だとか、後者が前者を包含するという話は違う。
(違うというか、それは机上の空論であって現実ではない)
つまり、

受け身であること」=「世界は既に始まっているという認識

なのだ。
このスタート地点に立つと、目眩に襲われそうな感覚がある。
人ひとりの人生では到底足りないのである。
しかし、これは「帰って来る先の現実」の認識なのだ。
…目眩が。
人類創造のない日本神話には、その代わりに、「これから生活を始める夫婦のための居住地の原型」がある。人が生まれて孤独にさまようのではなく、「新生活を始める夫婦のための確固たる生活前提」が、日本神話では用意されているのである
(…) 

 日本神話を生み出した古代の日本人は、もう家に住んでいた──住んでいて、「自分達に必要な家というものを構成する重要な要素はなにか?」という、意味を発見して行った。「意味の発見」というとむずかしいが、これはつまり、「生活の点検」であるような発見なのである。
(…) 
 八百万と言われるほどの多数の神々を登場させていて、日本の神話は、いとも明確に「現実的」なのである。明確に現実的であるそのことが、神々しくて感動的なのである。「日本人は物を考えるその初めにおいて、かくも具体的に明確だったのか」と思って、私は安心してしまったのである。
「既に始まっていた文化」(同上)
『橋本治という行き方』、再読完了!

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