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幸福も過ぎ去るが、苦しみもまた過ぎ去る。
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最近「保坂成分」が不足気味だったので補充しようと読み返す。
「熱心」「勤勉」というのは美里さんが好んで猫に使う形容で、猫というのは人間とは別の部分で熱心だし勤勉になる。部屋に迷い込んできた虫を見つけたらそれを捕まえるまで目を離さずずうっと追いつづけ、虫が簞笥の陰に隠れたら出てくるまでじっと待ち、それを美里さんが捕まえようものなら、どこに隠したんだと追及でもするように美里さんの手を見ながら十五分でも二十分でも美里さんについて歩く。そういうときのしつこさはきっと捕食する側の動物に特有のもので、草食動物にはないものだろうし(食べるものが逃げていかないから)、捕食動物としての猫のしつこさは実際に飼ってみないと観察できない
保坂和志『猫に時間の流れる』p.35
この小説もいつも通り、人と猫との生活が淡々と描かれ時間も淡々と過ぎて行く。
それは「観察する日々」でこその淡々で、躍動があるといえば頭の中にはある。
隣の部屋にきれいなお姉さんが住んでいて、彼女の飼い猫をきっかけに交流が始まり、何かが始まりそうで主人公も何かを期待しているのかといえば全然していなくて、そして実際何も起きないし、「途中から始まって、何かが変わったようで変わらないまま途中で終わる」という構成にスペクタクルのかけらもなくて、慣れた読み手も最初からそれを期待せずに淡々と読み始めて淡々と読み終える。
「生まれた時に既にゲームが始まっていて、ルールを知らないままボールを受け取って走り始める」というウチダ氏の「パッサーの話」を思い出すが、あの話は当たり前だけど普段忘れがちな原理をウィットを効かせて表現したものでキャッチーな評論といったところなのだけど、同じテーマのこの小説は油断すれば「そのまんま」、つまり人って生まれて死ぬものだという一例の提示に見える、つまり(二度目)通常思われるところの「敢えて小説として表現する意味」が見出せない。
なぜ読むのか、読んで何が得られるのか、という実利志向というか生産主義的発想を空回りさせるこの手の小説は、面白くない人にとってはほんとうに面白くない(のではと思う)。
そしてこのようなことを語る自分が何を考えているかといえば、(毎度のように最初に書こうと思ったことから盛大に逸れていると思いつつ、)恐らく実利志向とやらから抜け出そうともがいているが左足(軸足です)がどうしても「生産主義の底無し沼」から抜けなくて、しかし本気で左足を抜こうとは思っていなくて、それは沼自体は社会の地盤(言葉通りの「基礎」なんだけど沼だからゆるゆるというかぬるぬるしている)だから完全に抜くと「(社会から)宙に浮いてしまう」ことになって生活の大前提が変わってしまうからで、しかし抜こうとする動作は「沼の浅いところに留まりながら、沼には底がないことを絶えず意識し続ける」ためのフリであって止めることはできない(その一方、両足どころか体ごと浸かって下を見れば海底生物の怪しい燐光が興味を誘い、潜り始めると日光は遠のくが振り返らなければ気付くことはない。そして潜り続ける人に近づいているという確信を抱かせない海底の幻想世界は、底の無さに「終わらない欲望の連鎖」という麻薬的魅力を展開させている)。
つまり潜ると観察ができない。
それにだいいち僕は泳げない。
海は眺めるためにあるのだし、浜辺でするのは散歩かビーチバレーに限る。
もちろん日焼け止めは忘れない(肌が弱いので焼けると赤くただれて剥けるのだ)。
日焼け止めに覆われた肌が放つのは「冷やかしオーラ」だろうか。
違うな。海の外だから、「自室でクーラーつけて引きこもり」だろうか。
外にいながら、外との直接のやりとりを避ける。
(思えば「服」もそうか)
その「直接」が刺激が強いというのは、人間が変わったからではない。
人間のつくったものが人間を変える。
その作用が劇的になるのは、「頭の中の出来事」に近づいているから。

うーん、自由記述をすると高確率で「脳化社会」にたどり着いてしまうんだが。。

+*+*+*

最初に抜粋したあとに書きたかったこと。
人間って草食なんじゃん、と。
食べ物は逃げないからね。
けれど「草食動物のしつこさ」も別にあるはずで、
それはたとえば牛の反芻のようなものなのではないかな。
くっちゃくっちゃ。
執念ではなくて、必然というか、自然の摂理に従った「しつこさ」について考えてみようと思った。
それは人工の世界では「意志のあるしつこさ」に見えるのかもしれない。
そうであって、しかしそうではない。
考える作業は思いのほか難しそうだ。
そう、「思いのほか」だから。

くっちゃくっちゃ。
もきゅもきゅ。
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