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幸福も過ぎ去るが、苦しみもまた過ぎ去る。
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僕が「不健康な方が仕事が捗る」と前に書いた時は、健康だと他のことを色々考えて仕事に集中できなくなるからといった濁し方をしていたが、正直な表現をすると「健康だと精神が病む余裕ができてしまう」ということなのだった。
[内田]そういえば、戦争中は、精神科医のところに来る患者はあまりいなかったそうですね。
[春日]そうですね。戦争中もそうだし、それから精神病院で長いこと入院している様な患者さんでも、死にかけるとよくなったりしますからね。あれを見てると、そうか、身体の方にゆとりがあるから狂ってるだけなんだなって。(…)つくづく「健全な肉体に狂気は宿る」なんだなあと思いますね(笑)。
[内田]それだけ日本が豊かで平和だということなんでしょうね。豊かで安全だから、いくら身体感覚が鈍感でも、コミュニケーション能力が低くても、とりあえずは生きていける、と。

内田樹・春日武彦『健全な肉体に狂気は宿る』p.163-164
自分の生活(人生)において何を優先させるのか。
何を優先させると何が犠牲になるのか。
「身体の健康が第一」という分かりやすい前提が前提でなくなったのはそれだけ社会が複雑になった(豊かになった)からで、「健全な魂は健全な肉体に宿る」という諺があるじゃないか、身体が健康で精神が狂うなんておかしいと言えば、それはその通り社会がおかしいと思ってよいのである(そして同時にその「おかしい社会」に自分は適合したくない(できない)ということにもなる)。

集団に合わせるということはその内実を問わないということで、油断すれば「円滑なコミュニケーション」や「物語の共有」の裏にその集団の内実(仕組み)は全て隠れてしまう。
その内実を意識し続けるのは負担になるのだが、それは集団の仕組みの把握が集団内で上手く立ち回ることにいつも資するとは限らないからだ。
とはいえ誰しも自分が属する集団を意識するものだし、上の油断は深刻な状況に至るほど放置されるものではない。
しかしそこに別の油断が生じるというのは、仕組みを見ていたはずの「集団への意識」が慣習化すると専ら実際的な効果を求めることになって集団内に取り込まれてしまうことがある。
それはつまり「郷に入っては郷に従え」で当たり前のことなのだが、「郷の文化」に自分が丸ごと染まってよいのかどうかについては一度考えておいてよいと思う。
そして「"丸ごと"はイヤだ」と思った時には、「染まり切らずに残したい自分の一部」を守るための手段が必要になるが、その手段の前提には「("実際"には役に立たない領域の)集団の仕組みの(継続的な)把握」がある。
手段の具体的な内容は色々あるだろうけれど、このような状況の成り立ちが分かっていれば、自分のやり方や立ち位置に対して「腰を据えた自信」を持つことができる。
[内田]春日先生のように「自分はこういう人間なんだ」というシールドを張って、まず遮断しておくということは、コミュニケーションにとってはすごく有効なことですよね。コミュニケーションというとみんな発信することばかり考えてますけど、人間て外からくることばに想像以上に影響を受けやすいものなんです。ですから、まずはディフェンスを固めておかないと。 
 人間がまわりから受ける影響ってすごいですよ。無意識のうちに、信じられないくらい簡単に影響される。精神レベルだけじゃなく、身体レベルでも。誰にも経験があると思うんですが、ある種のフィジカルな波動みたいなものがあって、その人のそばにいるだけで、こちらの生命エネルギーがどんどんすり減っていってしまうような人間が現にいるんです。(…)春日先生は、患者さんと関わること自体が仕事なんだから、まずはシールドを張るというところから入らざるを得ないでしょう。一般の人でも、このシールドを張るということは必要です。

同上 p.94-95
自分が所属する集団には選べるものと選べないものがあり、選べないものを嘆いてもしょうがないし、選べるものは選べばいいということである。

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