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幸福も過ぎ去るが、苦しみもまた過ぎ去る。
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『海辺のカフカ(上)』を読み終え、自分で付箋を貼った箇所を読み返す。

物語の中盤、カフカ少年が私設図書館員である大島さんの兄の山小屋で想像に耽る場面に、グリーンの付箋が貼ってある。
少年は「アドルフ・アイヒマンの裁判について書かれた本」を読み終え、その後ろの見開きに、大島さんが鉛筆で残したメモを見つける。
大島さんもかつて、山小屋でこの本を読んだのだ。

メモにはこうある。
「すべては想像力の問題なのだ。僕らの責任は想像力の中から始まる。イェーツが書いている。In dreams begin the responsibilitiesーーまさにそのとおり。逆に言えば、想像力のないところに責任は生じないのかもしれない。このアイヒマンの例に見られるように」p.227

「僕らの責任は想像力の中から始まる」
そうだ、と僕も思う。
しかしこの認識は日常で人と共有されることが難しい。
それはまず想像力というものが「現実から離れたもの」とみなされて話題にされないからだが、そのような日常にいて、この言葉は僕の中で心強く響く。

その「心強く響く理由」について少し考えてみる。

この言葉は単に小説の中の表現であることを超えている。
恐らく実在の人物なのだろうけれど、イェーツという人がまず書いた言葉だ。
この言葉を大島さんが思い起こすことでメモとして記されたわけだが、それは大島さんがアイヒマンについての本を読んだからこそ記された。
大島さんがその本を読み、ナチのユダヤ人虐殺のある一つの視点による歴史を追体験し、内面化する中で、共鳴し呼び起こされたのがこのイェーツの言葉だ。
カフカ少年はその大島さんと深く通じるところがあり、そのメモを目にして、自分と同じ年くらいの時の大島さんが「尖った鉛筆を手に、本の見返しにメモを書き残す光景」をありありと思い浮かべ、そして"自分の責任"について「考えないわけにはいかない」。

「僕らの責任は想像力の中から始まる」
この言葉が僕の内面に届くまでに、イェーツという人、アイヒマンについての本を書いた人、大島さん、カフカ少年、そして村上春樹氏の5人を通過している。
後ろ3人について僕は、この言葉がいかに彼らの深いところで特別に響いているかを(『海辺のカフカ』、あるいは春樹氏の他の著作を通じて)知っている。

ここで「大島さんとカフカ少年は村上春樹が造形した登場人物であって、実在人物のようにカウントしてもよいのか」という問いが思い浮かぶ。
その問いには、僕はイエスと答える。
ある種の小説(僕は全ての小説がそうであることを願うのだが)の登場人物は、作者の把握から遠く離れている。
作者は彼らを知りたいから小説を書くのであり、小説は作者と登場人物との対話であり、「作者による登場人物の全的把握」は願いこそすれ叶うものでないことは日常生活での人間関係と何ら変わるところがない。
小説の作者とその小説の登場人物を「出所が同じ」として一つに括ることはたやすいが、その認識は恐らく小説の内容と深い関わりを持たないし、僕はそのような「お手軽な把握」を読み手の怠慢だと思う。
書き手の力量よりはむしろ読み手の想像力如何にかかっているのは、小説の作者とその登場人物の一人ひとりを「同じ重みをもった一人」として感じられるかだ。
そして僕が思うに、その感覚が強度を備えるカギは「人物造形(人となり)をその細微にわたって想像できること」よりも「(どれほどその人物についての多くの情報を得られたとしても)その人物には謎があり、その謎を魅力と感じられること」にある。

何が言いたかったのか。
言葉の重みは、その言葉を内面化した人の重みの集積による、ということだ。
ある言葉から何を感じるか、その内容は人によって様々だけれど、その様々を、その人たちの「人となり」込みでどれだけ想像できるか。
そしてそのような想像の中に、自然な形で、責任が宿る。
ここでいう責任とは、「その言葉の重みの一翼を担う者」の成員となったことによる責任のことだ。
これを「自意識過剰も甚だしい」と吐き捨ててしまえる人(世の中にはたくさんいると思う)は、永遠にこの認識にたどり着くことはできないだろう。
何せ、その通りなのだから。
「過剰なる自意識」が原動力となって、自らの想像に責任が(つまり「重み」が)生まれるのだから。
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