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幸福も過ぎ去るが、苦しみもまた過ぎ去る。
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(…)フランスの革命の時に、バステユという牢屋を打壊して中から罪人を引出してやったら、喜こぶと思いの外、かえって日の眼を見るのを恐れて、依然として暗い中に這入っていたがったという話があります。ちょっと可笑しな話であるが、日本でも乞食を三日すれば忘れられないといいますからあるいは本当かも知れません。乞食の型とか牢屋の型とかいうのも妙な言葉ですが、長い年月の間には人間本来の傾向もそういう風に矯めることが出来ないとも限りません
 こんな例ばかり見れば既成の型でどこまでも押して行けるという結論にもなりましょうが、それなら何故徳川氏が亡びて、維新の革命がどうして起ったか。つまり一つの型を永久に持続する事を中味の方で拒むからなんでしょう。なるほど一時は在来の型で抑えられるかも知れないが、どうしたって内容に伴れ添わない形式はいつか爆発しなければならぬと見るのが穏当で合理的な見解であると思う

夏目漱石『私の個人主義』p.87-88(「中味と形式」)

この本は年末年始に読もうと思って帰省前に自室の本棚から選んだ一冊である。
普段読まなさそうなものをと思い、行き帰りで読み終えられそうな薄さだったのも好材料だったのだけど、結局行き帰りで読み終えることはできず(読んだのは行きだけで、帰省してから戻ってくるまでは『太陽の塔』に夢中になっていた)、週末カフェ本にスライドしたのだった。
それで今日もブックオフで良い出物があり(赤瀬川源平と尾辻克彦の共著って一人二役やないですかの『東京路上観察記』とかつて一世を風靡したらしい小田実の貧乏旅行記『何でも見てやろう』の2冊)、ほくほくしながらベローチェに向かい続きを読んでいると、何の因果か今の自分にタイムリーな話が出てきたので抜粋してみた。
(関係ないけど、抜粋の最後で「爆発」と「穏当」が並んでいるのが面白い。同じ意味の文章を書いても僕にはこのような表現を選べないなあと思った)
分かりにくい言い方だけど、行きに読んでた中ではこういった感じの内容はなかったはずで(小節のタイトルは「道楽と職業」と「現代日本の開化」)、そうはいっても本書全体に通ずるテーマというか通奏低音はあるはずで、ならば今回のゆくくるの進行を導いたのはこの本だったのかもしれない。
読書において本の偏りはあっても「偶然の出会い」はとても頻繁に起こっていて(この内容はあの本にも書いてあったとか、これはまさに今自分が知りたいと思っていたことだとか、この部分は昨日カフェでみたあの高校生のような人のことを言っているのではないかとか)、それは単なる偶然ととらえるよりはこの読書こそが自分の生活を形作っているあるいはベースとなっていると考えたい。
そう考えた方が、前向きになれるからだ。
その方が、自分は変われるのだと思えるからだ。
今回のゆくくるを書く間深く考えてから、自分の価値観や対人挙動の一つひとつに今までは意識していなかった「刻印」が見えるようになった。
一度知るともう後戻りはできなくて、これから僕がしていくべきことは、その一つひとつをしっかり見る、把握することだ。
それをどうするかは個々別々だし見てみないと分からないが、見ようとしなかったことが見えるだけで状況は変わるし、対処法もその時に分かるのだと思う。
習慣の力は恐ろしいが、習慣を克服するために必要なのも習慣の力だ。
「考える前に考えるんだ」(これも偶然今日の夕食時に読んだ内田氏ブログにあった話)と同じことかもしれない。
急がば回れと言うけれど、急がずとも回ろう。
くるくると。
既に内面生活が違っているとすれば、それを統一する形式というのも、自然ズレて来なければならない。もしその形式をズラさないで、元の儘に据えて置いて、そうしてどこまでもその中に我々のこの変化しつつある生活の内容を押込めようとするならば失敗するのは眼に見えている。(…)内容の変化に注意もなく頓着もなく、一定不変の型を立てて、そうしてその型はただ在来あるからという意味で、またその型を自分が好いているというだけで、そうして傍観者たる学者のような態度を以て、相手の生活の内容に自分が触れることなしに推して行ったならば危ない。
同上 p.89-90
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